『東京裁判』の感想

東京裁判』はパラドックス定数という劇団で何度か上演されてる演劇です(https://pdx-c.com/past_play/imtfe-2009/
配信はこちら(https://www.xcream.net/item/17558

東京裁判を題材にした作品。パラドックス定数の演劇を観るたびに思うけど、題材にしてるからってそのままなぞってるわけではないんだよな。実際の出来事は出来事として置いといて、そこから話をふくらましてる気がする。

この作品における弁護人は五人。弁護団代表の鵜沢聡明、弁護士の資格を持たない水越英世、未来の外交官で通訳の星之宮衛、サポートに回ることが多い柳瀬秋午、口も回れば頭も回る末永令甫。目的や考えは違えど今この場にいる五人がどう変化していくのか。弁護する意味、今ここにいる意味、東京裁判をやる意味とは何なのか。何回観てもはっきりとした答えが出ないなと思った。

実は最初観たときピンとこなくて、物足りないとさえ思った記憶がある。多分話してる内容がよく分からなかったんだろうな。五回ぐらい観てようやく密度の高さに気付いた。めっちゃ面白いじゃん!!!

※以下ネタバレ





末永さんはアクセル踏みっぱなしのようで、肝心なところでブレーキを掛けることができる人。コミンズカー検事との論戦(ほぼ喧嘩)が本当に格好良い。「法律家としての気骨を持っていただきたい」というセリフは末永令甫という人物をよく表してるなと思う。体現してるもんね。

戦争犯罪人とされている人たちの中には、自分が有罪だと思っている人もいる。鵜沢さんは多分そういう人の意思を尊重したいと思ってるんだけど、末永さんは「死にたい人間を死なせることが意思の尊重だとは思えません」と言っている。この場面は二人の考え方の違いが表れてるなと思う。最終的に鵜沢さんは全員救うと決意するんだけど。

鵜沢さんは作中で一番変化する人だと思う。後半怒りという感情を露にするシーンがあるんだけど、そりゃそうだよなと思った。戦争に何の感情も抱いていない人間なんて(少なくともこの場には)いない。
あと鵜沢さんのセリフはどことなく白砂さんみを感じるなと思った。「無責任だとは思いませんでしたか?」の言い方と「後悔はしないでくださいね」に続く言葉よ……!柳瀬さんに発言させようと思って言ったセリフなんだけどそれにしたってさぁ……。

水越さんは裁かれたいという父の思いを尊重してほしいと考えてるのかな。ちょっとこの辺合ってるか自信ない。でも本当は救いたいと思っている。だから最後の「約束します、全員救いますから」という鵜沢さんの言葉と、「絶対死なせないって親父に言っとけ!」という末永さんの言葉は嬉しかったんじゃないかと思うけど分からない。
星之宮さんは弁護団の癒し。とにかく顔に出るし態度に出るし素直。「権力を振りかざすならな、自分の国でやれ!」という言葉には異議なし!と言いたくなった。この人が弁護団にいてよかったなと思う。

あとコミンズカー検事って実在したんですね!?今回調べてへえと思った。作中では末永さんと論戦を交えてる(ほぼほぼ喧嘩)んですが、人を煽る言葉をめっちゃ使うのでマジで腹立つんですよね。舞台上にはいないのにいるように思えてくる。
そう思えるのは視線の演技のおかげでもある。パール判事の方を見たり、ザリヤノフ判事が起きてるかどうか確認したり、コミンズカー検事の方を睨んだり。あと誰かが発言してるときにそちらを見たり見なかったり。視線を追うだけで何が起きてるのか、どういう感情なのか何となく分かるのがすごい。

何回観ても慣れないのは柳瀬さんが語る場面。毎回心臓が締め付けられるような気持ちになる。これは観てる方もだけどやってる方もしんどいだろうなと思う。
その場で聞いてるように入り込んでしまうので、何で同時通訳が止まるの!?と本気で思ってしまう。柳瀬さんの言葉が届かないのがどうしようもなく悔しい。
少し前の場面で「いくら表現の自由が保証されていても、話を聞く意思のある人間がいなければどうにもならない」と柳瀬さんが言ってて、それは本当にその通りだな……と思った。でも少なくとも他の四人には伝わってるし、『東京裁判』を観てる人にも伝わってる。そう思いたい。
あと柳瀬さんは世話焼きなんですよね。末永さんにチョコレートを食べろと迫るし、ステーキも食べろと言うし、水越さんの様子も気遣うし。もう裁判終わったらみんなでどっか遊びに行ってほしい。それぐらい私はこの五人が好きです。