電車が来ない

西大路のホームには待合室がない。私は吹きさらしのベンチで、先ほど買った本を開いていた。手がかじかんでページが捲れない。最終手段としてリュックで温めていた手袋を装着する。
何とか五ページほど読み進めたところで、私は電光掲示板を見上げた。山科、京都間で動かない矢印。焦りと不安と苛つきが込み上げる。
向かいのベンチでは、若いのかそうでないのかよく分からない女性がぼうっとしていた。首をすくめながら線路の方を眺めている。何となく綺麗な人だな、と当たりをつけ手元に視線を戻す。あと何ページ読めば電車が来るのだろう。
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